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KAGURAZAKA・想い

第6回 神楽坂店主リレー取材:神楽坂想い

受け継ぐ伝統と手づくりへのこだわりが、想いをつなげる。

いいだばし 萬年堂
二代目
樋口 秀徳さん

6回目となる今回、神楽坂銘茶「楽山」の2代目店主、齋藤昭人さんよりバトンを引き継いでいただくのは、「いいだばし萬年堂」の2代目店主、樋口秀徳さんです。

飯田橋・神楽坂地域の銘菓店として、多くの方から愛され続ける「いいだばし萬年堂」さん。創業はなんと1617年!400年以上続く伝統や、銘菓「御目出糖」・「ありが糖う」に込められた想いを伺ってきました。

地域に愛される銘菓店の歴史とは

歴史を感じるお店の看板

―お世話になっております、東京平版です。お話が聞けるのをとても楽しみにしていました。まずは、神楽坂で愛される銘菓店である萬年堂さんの歴史について教えてください。

〈樋口さん〉始まりは今から約400年ほど前、1617年に京都・寺町三条にて「亀屋和泉」が創業したことです。1872年8代目の時に東京駅近くの八重洲に移転し、この頃から屋号が現在の「亀屋和泉萬年堂」になりました。

 「いいだばし萬年堂」は11代目とともに長年和菓子製造を担っていた次男(先代)が1993年に独立し、この地に開業したお店です。

―「亀屋和泉萬年堂」が屋号なんですね。

 京都で創業した時は「亀屋和泉」という名前でした。京都には当時から「亀屋〇〇」というお店が何軒もあって、最盛期は120軒ほどあったようです。その後東京に移転したタイミングで、亀屋和泉に「萬年堂」という名前がついたと聞いています。

―なるほど。「いいだばし萬年堂」さんでも亀が印象的な理由がわかりました。

 当店は1993年に先代が独立して、飯田橋という場所の名前と萬年堂を取って「いいだばし萬年堂」となりました。店名に亀屋和泉が入っていないので、ルーツにちなんだ亀の由来を説明する時にややこしくなってしまって少し苦労します。

街の変遷と神楽坂発展のきっかけ

お店の外観

―樋口さんから見て、飯田橋や神楽坂はどんな街だと思いますか? 街の印象や思い出を教えてください。

 飯田橋には今から30年くらい前に移り住んできたんですが、その頃は今みたいに賑やかではなくて、静かで穏やかな街という印象がありました。近くにある建設会社の熊谷組さんを始めとしたオフィス街のイメージが強かったように思います。野球などの社会人スポーツが強い会社だったようで、お店の近くにも選手たちが通っていました。建設関連の会社も各所にありましたし、当時は熊谷組さんが街や地域の色を作っていたように思います。

―なるほど。今よりもオフィス街で、静かな街だったんですね。

 30年くらい前は今のように観光で人が街に来る雰囲気ではなかったと記憶しています。最初に人が増えるきっかけになったのは、神楽坂にディスコができてからではないでしょうか。坂下の方に「TwinStar(ツインスター)」という大きなディスコができたのですが、パラパラの聖地と呼ばれるほど一時期有名になったので、夜に若い人が増えた印象でした。

―最近では当時とはまた違った賑わいが感じられますが、いかがですか?

 そうですね。その後、2007年に神楽坂が舞台のテレビドラマ「拝啓、父上様」が放送されました。テレビで話題になったことでまた人が来るようになったんじゃないかと思います。そして、なにより神楽坂商店街の皆さんが「ほうずき市」や「阿波踊り」などを盛り上げたことで、ますます賑わってきたんだと思います。今は宣伝するよりも話題になることが効果的な時代になってきていますから。

―時代とともに街が変化していく様子は感慨深いですね。

 私たちが来る前の神楽坂は、今では想像がつかないくらい全く違う街だったと聞いています。生まれてからずっと神楽坂のそばに住んでいる同級生がいるのですが、彼が言うには40年くらい前に神楽坂でスキーをやったことがあるそうです。それくらい雪が降ったのと、スキーをやっても大丈夫なほど人通りが少なかったんだと思います。今はとてもじゃないけどできませんよね。

 私たちはオフィス街の八重洲から引っ越してきたこともあって、30年前の商店街の雰囲気はすごく好きでした。商店や個人店が多くて、趣があって。住むのにいいなぁなんて話していたんですよ。当時と比べると、街がとても早く変化しているように感じます。

気持ちを贈るお菓子に込められた想い

優しい甘さと可愛い見た目が印象的な「ありが糖う」

―長い歴史と伝統を守っている萬年堂さんの名物である「御目出糖」や「ありが糖う」について、思い出などを聞かせてください。

 「ありが糖う」は2013年から「御目出糖」の姉妹品として販売を始めました。以前から「御目出糖はあって“ありがとう”はないの?」とお客様から言われておりましたが、萬年堂は御目出糖のイメージが強いので、どういうものを作ればいいのか結構悩みましたね。そんな中、飯田橋のとある会社様の記念行事で「御目出糖・ありがとう」の詰め合わせを作ってほしいとご注文をいただいたことがきっかけで「ありが糖う」を創作いたしました。

―そうなんですね。お菓子の名前自体に気持ちが込められていることが素敵だなと感じました。

 「ありがとう」という言葉自体、とても意味のある言葉だと思います。お菓子の名前でもあるので、ご自宅で食べていただいても良いですし、大切な人への贈り物にしたい時は気持ちを伝える意味合いを持たせることもできますよね。パッケージに入っている「ありが糖う」の文字から、この商品を手に取っていただくことも多くて、その際に私たちもありがとうございますと言いますので、こんなによく使う言葉はなかなかないだろうなぁと思います。

―「ありがとう」という言葉は現代ではあまり使われなくなっているように感じますが、だからこそお菓子の名前にすることでより気持ちが伝わるのかなと思います。

 ありがとうございます。「ありが糖う」を作るに当たってはいろいろありました。伝統を守りつつも新しいものを作るということだったので、「御目出糖」のことを大事にしながら、イメージをマイナスにしてはいけないなと。

―具体的にどのようなことを意識したんですか?

 どんな字を使うかよく考えました。「御目出糖」は当て字で糖という字が使われていたので、「ありがとう」を作るときはどうしようかと。漢字で当て字にするか、平仮名にするか悩みましたね。そして最終的に「ありが糖う」という菓子名にしました。最後に「う」をつけることで柔らかい印象を持たせたんです。

―ものづくりのこだわりを感じます。では、ご商売される上で大切になさっていることや工夫されていることはございますか?

 大切にしていることは、「手作りにこだわること」です。お客様が喜んでくださることを糧にして、進歩していかなければならないと思っています。伝統を大切にしつつ、変化の激しい世の中において新しいことにも目を向ける。昔ながらの製法を守りながら時代に合わせていくことが、400年以上続いてきた理由だと思っています。

―長い歴史を時代とともに受け継いで、今の萬年堂さんがあるんですね。ご苦労も多かったと思いますが、いかがですか?

 苦労したのは2011年の東日本大震災の時です。「おめでとう」と言うようなお祝いごとができず、そんな気分にもならないという心理があるのか、「御目出糖」がなかなか使われなくなってしまったんです。御目出糖・ありが糖うという明るい菓子名がついているので、震災やコロナウイルスなどの世の中の変化にとても影響されやすいのだと思います。ただ、震災の後にありが糖うができたことで御目出糖とは違う意味合いを持たせることができたのかもしれません。2つのお菓子は全く対照的ではないと思うんですが、使い道としては違ったところもあるのかなという印象を受けました。

―2つのお菓子はまさに萬年堂さんを象徴していますね。

 ありがとうございます。

地域のお店との関係とこれからの神楽坂

―お店の商品以外におすすめする神楽坂土産はありますか?

 志満金さんのうなぎはおすすめです。志満金さんのお店の地下にはお茶室があって、当店はお茶に添えるお菓子をよくお届けしています。

 楽山さんのお茶もお土産におすすめです。余談ですが、お店を出した当時から抹茶が入るお菓子にはすべて楽山さんの抹茶を使用しています。地元にゆかりのある素材を使わせていただけるのはありがたいことですね。

―とても素晴らしい関係ですね。では最後に、これからの神楽坂に期待することはございますか?

 あまり大きなお店が増えないで欲しいと思います。小柄な間口のお店がたくさん並んで、散歩するだけでも楽しくなるような地域であって欲しいと願っています。

「御目出糖」・「ありが糖う」には、変わらない伝統を守ること、感謝の気持ちを忘れないことなど、人を想う気持ちがたくさん込められていました。気持ちを込めて作り、その気持ちを誰かが受け取り、大切な人に気持ちを贈る。そんな温かい気持ちのつながりが自然と生まれる和菓子の魅力に触れることができたことに「ありがとう」と感謝したくなりました。

コロナ禍での取材のため、取材先が変更になる場合がありますが、今後も神楽坂の店主様のバトンを繋いでいきたいと思います。
次回もどうぞお楽しみに。

いいだばし 萬年堂

〒162-0824 東京都新宿区揚場町2-19
電話:03-3266-0544
FAX:03-3266-0545
URL:http://www.omedeto.co.jp/

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